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映画の読み方、書き方『東京物語』(1953年 日本)

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 小津安二郎監督の名作である。この映画を初めて観たのはまだ私が二十歳の頃だった。当時の私は東京につき合っていた女の子がいて月に一度、名古屋から東京へ出かけデートしていた。学生の私はお金がないから新幹線など使えず、アルバイトしていた運送会社の東京行きのトラックに乗車させてもらい彼女とのデート代を浮かせていた。もちろんただで乗せてもらうのだから仕事はしっかりと手伝い、仁義は通した。その日の予定は朝から高田の馬場にある名画座で映画を観る事になっていた。ちょうど小津安二郎特集が組まれていて本作と合わせて3本観た。しかしいくら若いとはいえ、不眠不休でしかもその日の荷物が多く非常に疲れていた。缶コーヒーを何本か飲んで彼女と映画観に入った。上映が始まるとすぐに瞼が重たくなった。最初の印象は「何て単調で退屈な映画なんだろう、しかもこのおじいちゃん、昔からおじいちゃんだったんだあ」と感じたくらいで内容は全く覚えていない。覚えているのは隣の彼女が肘でコツコツと私を突っついて来たことくらいだ。完全に熟睡してしまった。その後の二作品も同じだった。いつもなら映画を観た後の食事は明るいものになるのだが、その日は彼女に申し訳ない気持ちにさせてしまった。ひと月に一度しか会えないのに何も楽しみを共有できなかったからだ。彼女は自宅へ帰り私は毎度の事ながら東京の友人のアパートに泊まる事になっていた。しかしその日の友人は年末に提出するゼミの論文に忙しくいなかった。アパートの鍵はいつもポストに入れておいてくれるのだが、それが見当たらなくて困った。時計を見るとまだ21時前。私はもう一度、名画座へ行き『東京物語』を観る事にした。正直、言葉が出なかった。淡々と続く会話、動きのない映像、ハリウッド映画のようにやかましいくらいの音付けのない作品に引き込まれた。そして何よりも敗戦国から高度経済成長を遂げた日本の家族の日常に起こるであろう家族像をテーマに先見の明を持って演出した素晴らしい映画だ。今観ても頷いてしまう。映画を見終わって彼女に公衆電話からその気持ちを伝えた。東京生まれ東京育ちの彼女と名古屋から東京へ行く私にとってもそれぞれの『東京物語』があった。翌日、OLだった彼女の仕事が終わるのを待って東京駅で食事をした。いつもなら帰りもトラックに便乗させてもらうのだが、その夜は東海道本線の鈍行列車で帰路についた。長い時間だったが車窓から見える風景に笠智衆と東山千栄子夫婦、また私と彼女との将来の約束の気持ちを交差させてくれた映画であった。

 

ウイキペディアより引用

監督 小津安二郎
脚本 野田高梧
小津安二郎
製作 山本武
出演者 笠智衆
東山千栄子
原節子
杉村春子
山村聡
音楽 斎藤高順
撮影 厚田雄春
編集 浜村義康
製作会社 松竹大船撮影所
配給 松竹
公開 1953年11月3日
上映時間 136分
製作国 日本
言語 日本語
配給収入 1億3165万円 

東京物語 - Wikipedia

 

 

 

東京物語(ニューデジタルリマスター)

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