未来予報

おすすめの映画や自然、猫について綴っていきたいと思います。

映画の読み方書き方『七人の侍』(1954年 日本)

AD

 この映画を知らないで日本映画は語れないと言っても過言ではない。私などこの映画でどれだけ励まされたことか。仕事で上手くいかない時、とてつもなく傷つきうずくまった時にこの映画を観ると再び活力が湧きあがって生きて行くことが出来た。とにかく勇気と力と希望を与えてくれる映画なのだ。

 弱い者でも知恵を出せばちゃんと生きていける。物語は毎日一生懸命の働く百姓が蓄えた農作物を毎年、野武士という山賊に根こそぎ強奪されるのを、もう我慢ならぬと一大決心して野武士と戦うというものだ。しかし百姓たちは戦い方を知らないし、そんな武芸もない。百姓は自分たちと一緒に戦ってくれる侍を探し、共に野武士をやっつけるという痛快な話だ。侍には色んな素性と戦歴がある。誇りも高いからましてや百姓に使えるなど誇りが許さない。しかし侍の本分は戦にある。本能的に戦を求める。しかし今や戦が少なくっている。戦がなければ侍の地位も名誉も上がらない。その戦を通して自己の研鑽も積み重ねていたと思われる。つまり侍は生き方にもこだわる。一言で言うなら武士道だ。主君に対する絶対的忠節を重視し、犠牲・礼儀・質素・倹約・尚武など。そしてここに集まった侍たちは、 “弱きを助け強きをくじく”心優しき本当の侍であろう。侍にとって野武士との戦いで得るはその日の飯と宿だけである。地位も名誉も上がらないしましてや銭にもならないのだ。そんな侍の心を動かしたのはやはり百姓たちの必死の懇願であろう。彼らは誰のために米を作っているのか?彼らは幸せなのか?いやとても楽な暮らしをしていない。ましてや、自分たちはそんな百姓の苦労も知らず当たり前のように、百姓が精魂込めて作った米を食って生きてきたのだ。

 その苦境を知って侍の心を揺れたのだ。劇中にこんなセリフがあったと思う。「・・・百姓は・・・雨が降っても日が照っても風が吹いても、心配ばかりで・・・つまり・・・びくびくするより能がねぇ・・・」百姓は年がら年中心休まる日などないのだ。話は飛ぶかもしれないがこれは現代の農家にも当てはまる。私の知人で就農した人がいるが、同じことを言っている。上からの指導で「種を買わねばならない、肥料も農薬も買わなければならない、農機具も買わないといけない。そして来年はIT化してくれと言ってくる。全く採算が合わない。儲けもなければ休む暇もない」時代は違うが百姓を虐める体制は何も変わっていない。

 さて、話を戻すが結果的にはこの戦に勝ったのは百姓たちだ。犠牲者は出たがもう来年再来年の野武士の心配をしなくても良い。数年は安泰だ。そして百姓には知恵があった。百姓は戦がなくても生きていける。しかし侍は生きていけない。百姓は鍬を持って生きていける。でも戦のない侍は刀を持っていても役に立たない。存在価値がないのだ。

 この物語は百姓の困窮した生活にも言及しているが、百姓という生き方は実は最強の武器でもあると物語っている。自然の力を借りて知恵を加えて食物を生産する。百姓において人生のすべてが実に建設的で生産的なのだ。しかも人の役に立つ。

 逆に侍はどうか。戦があれば天下太平のために貢献できる。しかしその戦は人を殺める。どんな大義名分の戦でありそれは正義といえるのだろうか?また戦のない時に刀はまったく役に立たない。武士道を生きるにおいて腰に収めて抜かないという不戦の美学があるが、そんな個人のこだわりは一生涯通用しないだろう。侍が刀を置いたら何も残らない。無用な人だ。生き方としては弱いだろう。

 この物語を読み解くと清く正しく武士道を突き詰めて生きていくには難しい時代が訪れたことを意味している。群雄割拠した戦国時代の方が侍にとっては生きやすかっただろう。皮肉だが侍が戦を納めるほど世の中は平和になり戦がなくなる。そのことで自らの存在価値を見失ってしますのだ。これを現代社会に当てはめても同じことが言える。

 学校でも会社でも政治の世界でも。いつまでも刀を振りかざしているだけの人はそのうち路頭に迷うだろう。

 いつの時代も誰にも負けない武器を持っている人が強い。その武器は決して人を傷つけない物にかぎる。

 

 

 

余談であるが、今の若者たちはあまり黒沢作品を知らない。観たこともないし、観る気もないと言われてショックを覚えた。何故かと問うと「白黒だし、長い」と言われた。これは悲劇だ。

 

ウイキペディアより引用

監督 黒澤明
脚本 黒澤明
橋本忍
小国英雄
製作 本木莊二郎
出演者 三船敏郎
志村喬
加東大介
木村功
千秋実
宮口精二
稲葉義男
音楽 早坂文雄
撮影 中井朝一
編集 岩下広一
製作会社 東宝
配給 東宝
公開 1954年4月26日
イタリア 1954年8月
フランス 1955年11月30日
アメリカ 1956年7月
上映時間 207分(オリジナル版)
160分(短縮版)
製作国 日本
言語 日本語
製作費 2億1000万円(当時の金額で)
配給収入 2億6823万円

 

七人の侍(2枚組)[東宝DVD名作セレクション]

七人の侍(2枚組)[東宝DVD名作セレクション]

 

 

 

七人の侍

七人の侍

  • 黒澤明
  • 日本映画
  • ¥2000

 

 

 

AD