未来予報

おすすめの映画や自然、猫について綴っていきたいと思います。

『エリゼのために』(2016年 ルーマニア)

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カンヌはクリスティアン・ムンジウ監督の時代に入ったと言っても良い。ムンジウ作品で衝撃的だったのは『4ヶ月、3週と2日』だ。この作品は妊娠した親友のために奔走する少女の物語だ。あんなに懸命に頑張ったのにまったく報われなかった。劇中の雰囲気はずっと重い、暗い、キツイ。それはルーマニアの希望のない国家を表現しているとしか受け止められなかった。本作も然り。父親は娘のためにありとあらゆることを行う、それが法律に抵触しても構わない。とにかく娘の将来が幸せになるなら何でもやる。彼にとってはそれが一番の生きがいだ。それはルーマニアにいては何も変わらないし、希望もない、自由もない、夢も叶えられない、お金も得られないという現状からだ。国家は信頼できない、腐敗しているとずっと言っている。革命があっても変わらなかった。そして自分も腐敗を承知で娘のために奔走する。娘は父親に愛人がいることも知っている。妻は病気だ。母親は死期が近い。すべてが崩壊している。だが、娘のためなら犯罪ギリギリで突き進んでいく。間違っているとはわかっているが、父親を応援したくなる。それはこの国に未来を感じられないからだ。この映画を観ていて気づくのはほとんど笑顔がない。笑い声もない。喜怒哀楽の四文字の負の言葉しかないのだ。でもだ、最後の最後に娘が満面の笑みを浮かべる。その時に発した言葉が印象的だ「私もうまくやれたでしょ!」父親はハッとした顔をする。私はルーマニア語とそのニュアンスはわからないが、この娘はひょっとしてあんなに毛嫌いしていた不正に対して賛同して試験が通ったのか、それとも自力で試験を乗り切ったのかわからないが、もし前者ならやはりこの国の少年少女たちの叫びは深刻であると感じた。腐敗、不正は繰り返されるからだ。

映画『エリザのために』公式サイト

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